[画像を見る]
2021年も新型コロナに翻弄される1年だったが、それでも科学技術は常に前進している。困難の中にあっても、人類の飽くなき探求心が求める答えへと導いてくれる。
今年1年を振り返り、もし本当ならば科学の常識をくつがえすかもしれない6つの大発見をまとめてみていこう。
・1. 天の川銀河に存在する反物質星の数が推定される
フランスの天体物理学・惑星学研究所が今年4月、天の川銀河に存在する反物質星の数を推定することに成功したと発表した。
反物質とは、ある粒子と質量とスピンが全く同じなのに、まったく逆の性質を持つ反粒子でできた物質反陽子、反中性子、反電子などで作られた物質のことだ。
ビックバンによって宇宙がつくられたとき、物質と反物質は同じ数だけ存在していた。だが物質と反物資との間にわずかな性質の違いがあったために、対消滅によって物質だけが残ったといわれている。
もしこの発見が本当なら「反物質はとうの昔に消滅した」という宇宙論の常識をくつがえすことになる。[画像を見る]
image credit:SIMON DUPOURQUE/IRAP
反物質星に普通の物質が落下すると、対消滅により特徴的なガンマ線が発生する。そこで研究チームは、フェルミガンマ線宇宙望遠鏡の10年間に及ぶガンマ線の観測データを分析し、天の川銀河の14個の反物質星の候補を絞り込んだ。
これら14個の候補から放射されているガンマ線は、他の既知の天体から放射されるガンマ線の特徴と一致せず、物質と反物質の「対消滅」の際に発生するガンマ線の特徴と一致していたことがわかった。
そこから推測した結果、天の川銀河には30万個の普通の恒星に対し、最大で1個の反物質星が存在することが導き出されたのだ。
この発見は、宇宙にはまだかなりの量の反物質が残っていることを示唆している。
だが反物質星は普通の星の光とあまり変わらず、ガンマ線以外の点において、反物質星の存在を証明することは、なかなか困難であるようだ。References:Are there anti-stars around us? Answer from the Fermi satellite – Institut de Recherche en Astrophysique et Planetologie・2. 新たなミューオンの発見か?
[画像を見る]
フェルミ研究所のg-2蓄積リング磁石 image credit:Reidar Hahn / WIKI commons
新しい基本粒子が存在するという証拠ほど、物理学者の胸を躍らせるものはない。
アメリカ、フェルミ国立加速器研究所で行われた「ミューオンg-2実験」では、巨大な磁石のまわりに無数の「ミューオン」(素粒子標準模型における第二世代の荷電レプトンでミュー粒子とも呼ばれる)を放り投げて、その挙動を観察している。すると磁極の向きの揺れ速度が、従来の理論による予測とは違うミューオンが見つかったのだ。
この振る舞いは、何らかの隠れた粒子がミューオンの磁力に作用しているだろうことを示唆する。つまり宇宙の基本的な力や素粒子について説明する、素粒子物理学の標準モデルがくつがえる可能性があるのだ。
しかしミューオンの挙動予測をさらに精緻化しようと試みる物理学者を納得させるには、まだまだデータが足りないようだ。
References:First results from the Muon g-2 experiment at Fermilab | Theory Division・3. 宇宙に弧を描く大アーチ「ジャイアントアーク」の発見
30億光年以上にもわたって伸びる巨大な銀河のアーチが検出された。このアーチは「ジャイアントアーク」と名付けられ、長さは約33億光年、幅は3億3000万光年に及ぶ。
[画像を見る]
image credit:Lopez etal
これは「巨視的な視点から見れば、宇宙の物質は均一に分布している」とする従来の常識に反する発見だ。
肉眼では見えないジャイアントアークは、およそ4万個のクエーサーの分析から明らかになったもの。その一方、「何もないところにパターンを見出す人間の性質によるもの」という懐疑的な声もある。
References:Huge arc of galaxies is surprising and puzzling cosmologists | Science News for Students・4. 定説よりも早く人類はアメリカ大陸に定住していた
昨年、「人類は3万3000年前にはアメリカ大陸に定住していた」という説が発表された。これは従来の学説よりも1万5000年も早い。
メキシコのとある洞窟で3万3000年~2万8000年前の動物の骨が発見されたのだが、そのすぐそばから、道具として使えるであろう砕いて鋭いエッジをつけた石が見つかったのだ。それは、当時その地域には人間がいただろうことを示唆している。
今年はその新説を裏付ける新たな証拠が発見された。
ニューメキシコ州で化石化した人間の足跡が発見されたのだ。これは、2万3000年~2万1000年前に人間がアメリカ大陸を歩いていただろうことを仄めかす。[画像を見る]
image credit:DAVID BUSTOS/NATIONAL PARK SERVICE, BOURNEMOUTH UNIV.
もしその足跡の年代の正しさが証明されれば、最後の氷河期の最盛期に人類はすでに北米に到達していたことになる。
References:Evidence of humans in North America during the Last Glacial Maximum・5. 地球最古の動物の痕跡を発見か?
8億9000万年前の古い岩石から、「海綿動物」の残骸と思われる小さなチューブが発見された。
これが本当ならば、動物が誕生した時期は、従来の説よりさらに3億5000万年さかのぼることになる。酸素が乏しく、動物には適さないだろうと考えられている時代だ。
[画像を見る]
image credit:E.C. Turner/Nature 2021
だが、これが海綿の化石であるかどうかについては、確信できないでいる専門家もいる。
そうした懐疑派は、海綿の一般的な特徴である「骨針」という骨格部がないことや、動物以外の多くの生物でも似たようなチューブを作れることを指摘する。References:Possible poriferan body fossils in early Neoproterozoic microbial reefs | Nature・6. 天の川銀河の外で最初の太陽系外惑星を発見
我々が暮らす天の川銀河の外で、史上初めて惑星が発見されたかもしれない。それは地球から2800万光年離れたとある銀河で検出された。
これほどの距離になると、従来の惑星検出法はあまり役に立たない。そこでX線連星と呼ばれる恒星のペアが利用された。
この星はX線を放っている。そのため前を惑星が通過すると、X線が一時的に遮られ、そこに惑星があるだろうことを伝えてくれる。
懐疑派は、そのためには、いくつもの星がきちんと整列しなければならない点を指摘する。惑星を発見するには、望遠鏡を覗き込んでいるその瞬間に、地球から見てちょうど一直線になるよう惑星がX線連星の前を通過しなければならないのだ。
References:Chandra Sees Evidence for Possible Planet in Another Galaxy | NASA
written by hiroching / edited by parumo