「トラックドライバーの聖地」とも言われるラーメンチェーン「山岡家」が絶好調です(筆者撮影)(東洋経済オンライン)
少し濃いめで、後を引くようなスープと、絶妙な麺の太さ。かつては「トラックドライバー御用達」と言われていたラーメンチェーンの「山岡家」(株式会社丸千代山岡家)に若年層のお客さんが増え、いま絶好調です。 【写真】「山岡家」のすごい券売機。そのハイテクな仕様は ■「41カ月連続増収」という離れ業も達成 コロナ禍でラーメン店が苦しんだ2020年、21年にも売り上げを伸ばし、22年以降は驚くほどの業績の伸びです。23年以降3期連続の増収増益、かつ過去最高売り上げと利益です。25年9月まで41カ月連続増収という離れ業も達成しています。
最新の26年1月期の中間決算では売上高は前期比26.8%増、前期から41億8200万円の増収です。さらに経常利益も26.0%増となり、前期から4億1300万円の増益です。 もともとの顧客であるトラックドライバーだけでなく、若者や子連れのファミリー客までも集客し、ファン層を確実に広げ、客数を伸ばすことで確実に成長を遂げています。 山岡家はいったい、どんな店づくりで顧客を引き付けているのか。 実際に山岡家の創業の地である茨城県牛久市の1号店に行き、山岡家自慢のラーメンを食してみると、そこであらためて同社の「逆張り経営」とも呼べる戦略を目の当たりにすることになりました。
まずは同社の業績推移を見てください。 山岡家の25年1月期の売上高は345億円。23年1月期と比較すると185.2%と大幅に売り上げを伸ばしています。営業利益では7倍、営業利益率、経常利益率は共に、同社創業以来初の10%超えを果たしています。まさに業績絶好調です。 この業績を支えているのが同社の展開する「逆張り経営」の数々です。 ■あえて“スローな”出店スピード 山岡家の逆張り経営の第一に挙げられるのが同社の出店戦略です。
出店は小売り・サービス業にとってもっとも優先度の高い戦略要素。特にチェーン店にとっては店を増やす=店舗が増えて売り上げが上がり、食材コストなどの原価率が下がり、収益性が高まるというのが鉄則だからです。 しかし、山岡家の出店ペースはとても遅い。スローな出店戦略が特徴です。 山岡家の店舗数は06年1月期に67店舗でしたが、12年には137店舗と6年間で倍増させた時期があります。しかし売り上げは1.7倍までしか伸びず、数年間の停滞期間、14年には店舗数、売上高ともに減少となりました。
ここから同社は出店政策を見直し、同社にとって最適な立地をじっくり選び、ゆっくりと出店していくスロー経営に転じます。 すると驚くことに、10年後の22年には店舗数は169店舗と23%しか伸びていませんが、売り上げは70%増となりました。12年に1店舗当たり6000万円程度だった売り上げは23年1月期には1億600万円に、25年1月期には1億8400万円と3倍に伸びているのです。 直近2年間で店舗数は12店舗増。年間6店舗しか出店していないのです。同社は純粋に1店舗当たりの売り上げを増やし、全社売り上げを上げていることがわかります。
全体で100店舗を超えるラーメンチェーンでありながら、1店舗1店舗を繁盛店にしている。このスローな出店戦略と1店舗ごとの店の強さこそ、山岡家が他のチェーン店と異なる、逆張り経営の真髄です。 ■東京23区には出店していない また、山岡家はその出店立地にも特徴があります。 最大の特徴は、札幌に本社を置きながら1号店は茨城の牛久店、そして全国展開をしているという点。 全国チェーンではあるものの、東京都内には2店舗(瑞穂店、青梅店)しか店を出しておらず、基本的に地方郊外に店舗展開するローカルチェーンです。
筆者は同社の創業の地である、茨城県牛久市の1号店に向かいました。 常磐線で揺られること約1時間、ひたち野うしく駅から徒歩でおよそ17分。国道6号水戸街道をとぼとぼ歩いていくと、水戸街道と常磐線にはさまれた立地に牛久店はありました。 山岡家の特徴は、とにかく看板が目立つのですが、牛久店は創業の地ということもあり、昔から知られた存在だからか、ポール看板はつけていません。しかし、赤地に白文字の山岡家の「ラーメン山岡家」という看板文字は400m手前からでもわかりました。
18年にリニューアルされたため創業当時の面影はなくなっていましたが、90年代まで「牛久ラーメン」と常連の間で呼ばれていた店にはなんとなく風格が感じられました。 物流関係の大型トラックの通行量も多く、地元の生活道路にもなっている立地。実はこの立地戦略こそが山岡家逆張り経営の極みであり、最大の独自性です。 今でも全国の山岡家のメインターゲットはトラックドライバーです。ですから駐車場を広くとり、大型トラックが駐車可能なスペースを確保している店が多いのですが、牛久店は敷地の広さがそれほどとれない細長い敷地のため、駐車場は普通車15台が駐められる程度の広さでした。
それでも大型トラックが1台は駐められるようなスペースを確保していることや、店前にも5台ほどの車やトラックが駐められそうというのも山岡家ならではの立地でした。 山岡家にはシャワー室を完備している店もあり、苫小牧船見店、羽生店など13店舗ほどで設置しています。店内で飲食すればシャワーを無料で使えます。 同店は24時間営業がほとんどですから、移動中に山岡家で食事をして、シャワーを浴びて休憩もできるという便利な店だからこそ「トラックドライバーの聖地」と呼ばれたのです。
「88年の牛久店オープン初日の売り上げが6000円しかなかった」時代もあったという同社。家賃やスタッフの給料を何とかしようと長時間営業を始めたというのが嘘のように、今は次々とお客が押し寄せる繁盛店になっています。 ■アプリの導入で若年層が急増 休日ということもあってか、客層は子連れのファミリー客、10〜20代の若者たちやカップルなど、比較的若い客層が目立っていました。 もしかして山岡家の客層が少しずつ変化しているのかと疑問に思い、同社のアプリ会員の内訳を見てみました。するとおもしろい傾向がわかりました。
山岡家のアプリ会員は25年7月時点で140万人を超えています。男性が74.1%とやはり男性客が多いのは想像通りですが、年齢別客層でダントツに多いのが20代で全体の34.5%、さらに10代が8.6%もいるのです。 山岡家社内でも30〜40代が多いと予測していたようですが、アプリ導入により10〜20代という若年層の新規顧客を獲得していたのです。トラックドライバーの常連客に加えて、新規で若者層を獲得した。これが同社の売り上げを大きく伸ばした一要因だったのです。
山岡家のように郊外立地に出店することは認知度獲得にはデメリットですが、経費を抑えるという点では経営メリットが非常に大きくなります。 特に小売り・サービス業にとって家賃を抑えることは一番の収益性アップ要因となります。広い面積を借りても、都心で商売することに比べるとかなりの低家賃で済みます。 ラーメンチェーン店はコロナ禍以降、息を吹き返し、比較的どの企業も売り上げを伸ばしています。競合他社でいうと、幸楽苑や一風堂も売り上げを伸ばしています。
一時期は赤字だった幸楽苑も、同社の新井田傳会長が経営に復帰して以降は業績を回復。海外出店を強化している一風堂は売り上げは伸びていますが、利益は落としています。 この2社と比較すると山岡家の増収増益の高さが目立ちます。特に販売費及び一般管理費(販管費)の伸び率がもっとも高いにもかかわらず、大幅増益しています。こうした点からも山岡家の安定した収益性がよくわかるでしょう。 ■「人に投資をする」ラーメンチェーン店
では3社の経費構造を比較してみましょう。 山岡家の販管費率は25年度で59.7%です。ものすごく低いわけではありませんが、利益を出すには十分な販管費に抑えています。 理由は地代家賃の安さ。売上比で2.8%です。幸楽苑はその3倍以上の8.7%、一風堂は海外店舗もあることからおよそ5倍の13.7%の地代家賃です。 山岡家は店舗出店やリニューアルも絞りに絞っていますので、減価償却も抑えられています。広告宣伝費も1.2%とほとんどかかっていないレベルです。
一方で、人件費には投資しており、売上構成比で34.3%、労働分配率(粗利に占める人件費割合)は48.8%です。幸楽苑の人件費率は山岡家と同程度ですが、分配率は49.6%と山岡家が低く抑えているのがわかります。しかし人件費では、幸楽苑より実額で20億円以上も多いのです。 つまり山岡家の経営は、今、人に徹底的に投資をしているということです。人的資本に投資をして、それ以外の経費をできるだけ抑えることで、高収益を生み出す経営体を作っているのです。
実際に25年3月には基本給で平均6.8%のベースアップを実施していますし、確定拠出年金の増額を行うなど、金銭面で従業員への安心感を提供しています。同時に「健康経営優良法人2025」に認定されるなど、従業員の心身サポートにも力を入れています。 まさに人的資本経営をしている代表的な企業と言ってもいいかもしれません。山岡家のスタッフがイキイキと働いている理由がわかった気がしました。 ■「納得のいくスープ」を作れなければ出店しない
山岡家の今期スローガンは「お客様に喜んで貰う」というものです。これは同社の理念でもあります。通常、多くの飲食チェーンではセントラルキッチンで主要な食材の下準備や調理を済ませ、店舗に配送することでオペレーションコストを下げ、効率的に収益を上げようとするものです。 これに対して山岡家では、麺は共通ですが、ラーメンの味の核となるスープ、チャーシュー、野菜類のカットはすべて各店の店内調理です。スープは水と豚骨を丸3日煮込んで作ります。
山岡家らしい味が出ているかどうか、同社の創業者である山岡正会長は実際に車で全店をまわりチェックし続けているそうですから、そのスープに対するこだわりは並々ならぬものがあると言っていいでしょう。 最近では、スープの知識向上を目的にした山岡会長によるスープ講習会、スキル向上のための社内コンテストの開催、動画マニュアルによるスキル教育、果ては北海道北広島にトレーニングセンターを開設するなどして、徹底したQSC(品質・サービス・清潔さ)向上と従業員教育を強化しています。
これによって“リピーター率75%”と言われる固定客化ができているのです。 山岡家では「新規出店は、スープづくりを任せられる店長が育つことを目安にしている」(同社談)と言います。 それは「納得のいかないラーメンを絶対にお客様に提供しない」という同社の理念に沿っています。本当に美味しい、山岡家ならではのスープを作ることができる人材を育てるには、年間7〜10店舗が出店の限界ということです。 また24年度までに全店舗でキャッシュレス券売機を導入し、スタッフが金銭のやり取りをする必要がなくなりました。
さらに同社独自の麺をゆでるタイマーと券売機が連動していて、注文が入った段階できちんと麺をゆでられるように準備しているのです。 同店では、麺をゆでる時間は7分間と決められています。都心であれば時間を気にするお客さんが多く、長く待っていられないということもあります。しかし郊外であれば、都心ほど時間を気にする人が少ないというのも、顧客満足度が下がらない要因かもしれません。 私は同社定番の味噌ネギラーメン(税込み840円)にのり5枚をトッピング(同150円)、特製ギョーザ(同370円)、半ライス(同170円)をいただきました。
注文は必ずスタッフが確認に来て、間違いがないかどうか確認することがマニュアル化されています。必ずスタッフとお客がコミュニケーションをとるようにしているのも同社の独自性です。 ラーメンが届いたのは注文してから11分後。麺をきっちり7分間ゆでていることがわかる到着時間です。同社特有のすこし濃い目ですが飲みやすいスープと、たっぷりのネギとこだわりチャーシューの味わいに加えて、ついリピートしたくなるおなじみパリパリ餃子はやっぱり美味しい。
■「山岡家」の伸びはさらに高まる では25年1月度の1年間の客数、客単価はどうだったのか。 山岡家の決算に合わせて、前述の3社の24年2月から25年1月の月別数値を見ると、山岡家の伸び率がダントツに高いのがよくわかります。 幸楽苑、一風堂も伸びていますが、山岡家は売上高、客数ともに年間通して20%以上の伸びです。客数はすべての月において山岡家が他を圧倒しています。しかも毎月2桁以上の客数増です。これは驚異的な伸びと言っていいでしょう。
客単価は一風堂が圧倒的に高いのですが、客数は前年を割る月もあるのとは対照的です。 山岡家は純粋に各店での客数を伸ばして売り上げを上げてきているのです。 各社の1店舗当たりの売り上げを比較すると山岡家が際立ちます。国内に限定すれば山岡家の1店当たり売り上げは他社の2倍。稼ぐ店舗を作っているのがよくわかります。 ■「規模の拡大」を追いかける時代は終わった チェーン店でありながら、1店舗1店舗の店舗力を磨き、職人と呼べるような従業員をじっくりと育て、自信の持てる味を提供し、ゆっくりと店を出店させていく。
店舗を増やすにしても力相応で、本当に儲かるところを探して出店をする。そこに妥協はしないので出店を直前で取りやめることもあるほどです。 あらためて、これからの小売り・サービス業というのは、単店に魅力がなければダメであり、規模だけを追求しても意味がないことを山岡家は証明しているように思います。 単に規模の拡大を追いかける時代は平成とともに終わりました。人口減少も本格化している令和の時代には、新たな企業成長モデルを開発することが求められています。
山岡家はそんな脱成長時代にふさわしいモデル企業と言えるのです。
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