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カタール攻撃で天然ガス市場が前代未聞の危機に 石油市場より問題は深刻

カタール北部の工業都市ラスラファン。2019年06月21日撮影(Monique Jaques/Getty Images)

イランは18~19日にかけて、世界最大の液化天然ガス(LNG)生産・輸出拠点のあるカタール北部の工業都市ラスラファンをミサイルで攻撃した。これにより、複数のLNG関連施設で火災が発生した。国営カタール・エナジーは、先のドローン(無人機)攻撃で同施設群は既に機能不全に陥っていたが、今回のミサイル攻撃で被害が拡大したと説明した。

 

これに先立ち、イスラエル軍はイランのガス田「サウスパース」を攻撃していた。イスラエルがイランの天然ガス資産を標的としたのは初めてのことだった。今や、世界のエネルギー事情は根本的に変化してしまった。

現在の中東情勢に関する報道は、あまりにも範囲が狭すぎる。誰もが原油価格に注目しているが、より重大で長期的な影響が及んでいるのは世界のLNG市場だ。ロシアによるウクライナ侵攻と同様、中東でもガス施設が戦争の武器と化している。だが、ガスに関しては、世界には戦略備蓄も、緊急用備蓄も、即効性のある解決策もない。今後、数週間から数カ月にわたって発生する問題は、石油の単位ではなく、暖房や電力、肥料の単位で測られることになり、その影響は全世界に及ぶだろう。

米イスラエル両軍が先月28日にイランに攻撃を仕掛ける以前、世界の天然ガス価格は比較的安定していた。ところが、カタール・エナジーが今月2日、最初の無人機攻撃を受けてLNG生産を停止すると、わずか1週間で価格はほぼ2倍に跳ね上がった。英調査会社ウッド・マッケンジーのミアオル・フアンによると、アジアのLNGスポット価格はその後、百万英国熱量単位(BTU)当たり20ドル前後まで急騰した。これは現在の米国の標準価格の5倍に相当する。ラスラファンへのミサイル攻撃後、数時間のうちにガソリン価格は欧州で24%、英国では23%急騰した。

 

こうした混乱が重なり、今月だけで約580万トンのLNGが国際市場から消失した。これは、世界に供給される予定だった量の約14%に相当する。米イスラエルの攻撃を受けて以降、イランはペルシャ湾に位置するエネルギー輸送の要衝ホルムズ海峡を事実上、封鎖している。船舶の動きをリアルタイムで追跡するベルギーの調査会社ケプラーによると、数十隻のタンカーが現在、沖合で足止めされ、ペルシャ湾への出入りができない状況にある。

英調査会社ボルテクサのフロレンス・ユーは、「LNG市場には余剰供給能力がないため、同市場への影響は即座に及び、甚大な規模になるだろう」との見方を示した。世界中で取引されるLNGの20%、特にカタールのLNG輸出の90%がホルムズ海峡を通過している。カタールが世界のLNG供給量の20%を占めていることを考えると、この数字は無視できない。

ガスには戦略備蓄がない

石油には、国際エネルギー機関(IEA)や各国政府が緊急時に放出できる数億バレル規模の戦略備蓄がある。一方、LNGにはこれに匹敵するものはない。石油危機に備えた安全網を構築するために、国際社会は数十年の歳月を費やしてきたが、ガスに関しては、こうした対策が施されてこなかったのだ。その視点の甘さが、今や全世界を巻き込む問題となっている。

 

たとえ明日、戦闘が終結したとしても、ラスラファンのLNG施設はそれほど簡単に再稼働できるものではない。同施設では、貨物を生産・出荷できるようになるまでに、数週間にわたる入念な再稼働手続きが必要となる。しかし、それは問題のほんの一部に過ぎない。度重なるミサイル攻撃による被害は甚大で、完全な修復には最大5年かかるとみられている。しかも、戦闘が完全に終結するまでは、修復作業員が内部に足を踏み入れることは一切許されない。

カタールのサアド・シェリダ・カアビ・エネルギー相は、同国のLNG輸出の混乱が当初の想定よりはるかに長引く可能性があり、操業再開には戦闘行為の完全な停止が必要だと述べた。ガスの生産は1つの課題だが、輸送もまた別の問題だ。筆者の取材に応じた危機管理の専門家アリ・ジャッバーは、輸送費や保険料も判断材料になると指摘する。「LNGを輸送するための船舶を借りるのは非常に高額で、1日当たり40万ドル(約6400万円)ほどになることもある。さらに、保険料が大幅に値上がりしており、多くの企業がリスクを負うことに二の足を踏んでいる」

カタールの混乱による不足分は、他国が生産を拡大したとしても補うことはできない。最も有力な代替候補である米国とオーストラリアは、既に自国の施設が処理できる限界までLNGを生産しており、稼働を待っている遊休設備は一切ない。ナイジェリア、アルジェリア、トリニダード・トバゴは、それぞれ独自の供給上の制約を抱えている。カタール以外の世界中の国が現実的に増産できる量をすべて合計しても、200万トンにも満たない。だが実際には、今月だけで市場からは580万トンのLNGが消失している。

 

多くの報道機関は、日本や韓国が差し迫った苦境に直面していると伝えているが、最も不安定な状況にあるのは台湾だ。同国は昨年のLNG輸入量の35%をカタールとアラブ首長国連邦(UAE)に依存していた。さらに事態を悪化させているのは、台湾は昨年半ば、最後の原子力発電所を閉鎖するとともに複数の石炭火力発電所の稼働を停止したため、電力供給源がほぼなくなってしまったことだ。ウッド・マッケンジーによると、インドも天然ガスの約58%を中東から輸入しており、同地域の情勢の影響を受けやすい。シンガポールも、天然ガスの27%を中東から調達している。

石油市場のような危機対策が施されてこなかったガス市場

一部のアナリストは、市場の反応は過剰であり、最終的には他の供給業者がその穴を埋めるだろうとみている。その見方は1週間前ならもっともらしく聞こえたかもしれないが、カタールのガス田が爆撃された今となっては、それを主張するのは非常に困難だ。ラスラファンは経路変更が可能なパイプラインではない。タンカーも経路を変更することはできない。これは3週間に2度も被害を受けた複雑な産業施設であり、被害の完全な復旧には3~5年かかる可能性がある。

 

楽観的なシナリオでは、戦闘の完全な終結とホルムズ海峡の安全な航行の回復、そして2週間の再開手続きが必要となるが、いずれも新たな攻撃なしに実現されなければならない。米金融大手ゴールドマン・サックスは、ホルムズ海峡があと1カ月封鎖されれば、ガス価格は現在の水準から2倍以上に跳ね上がる恐れがあると警告している。欧州は2022年に同様の危機を乗り切ったが、それは数カ月の準備期間があったからできたことだ。

米石油企業ガルフオイルのトム・クロザ上級顧問は、次のように述べた。「もしイランがペルシャ湾以外の場所、例えばオランダ・ロッテルダムの製油所や米国内の施設を標的にしたら、世界がどんな反応を示すか想像できるだろうか? そうなれば、もはや予測がつかなくなり、価格はまさに破滅的な水準にまで跳ね上がる可能性がある」

世界は過去50年間にわたり、石油供給危機に対処するための体制を整えてきた。具体的には、戦略備蓄、余剰生産能力、タンカーの航路を即座に変更できる体制などが挙げられる。一方、LNGに関しては、それに相当する対策はほとんど練られてこなかった。なぜなら、LNG設備が攻撃の標的にされるとは想定されていなかったからだ。その思い込みは、今回の軍事衝突の中で消え去った。

 

既に明らかになっているのは、今回の危機によって、信頼できる世界的なガス供給国となるための資源と安定性を備えた米国、オーストラリア、カナダへのLNG関連の投資が加速するだろうということだ。混乱は痛みを伴う。これが引き金となって進む社会基盤の整備は、最終的に今後数十年にわたって世界のエネルギー貿易のあり方を大きく変える可能性がある。

参照元:https://forbesjapan.com/

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