現役を引退し、来季から大阪ブルテオンのコーチに就任する清水邦広(39歳)。バレーボールへと導いた母が息子との思い出を振り返った photograph by R/OSAKA BLUTEON(photograph by R/OSAKA BLUTEON)
長らく男子バレー界を牽引し、酸いも甘いも味わってきた清水邦広(39歳)。大学生で日本代表に抜擢されながら、「暗黒時代」と揶揄された低迷期を支えてきた。膝の大ケガにも泣かされながら、それでも第一線であり続けた清水を慕う選手は多い。愛された男のバレーボール人生を、いちばん近くで見守ってきた「ふたり」の証言で振り返る。〈NumberWebインタビュー全3回の1回目〉 【秘蔵写真】「えっ、めっちゃ可愛すぎる」なぜか亀に乗っかる4歳の清水邦広(他、貴重な初公開写真が満載) あの子には、おかてがある――。 「おかてがある」というのは、福井県の越前地方で「生まれながらによい運勢を持っている」「生まれつき恵まれている」という意味で使われるのだという。 今年5月、18年に及ぶ現役生活に別れを告げた清水邦広の母、香代子さんが息子に向けた言葉だ。 「出会うべき時に、会わなければいけない人に出会ってきた。これだけ長い間プレーし続けることができて、引退してからもたくさんの人に声をかけてもらって、取り上げてもらえて。本当にありがたいことだし、ご縁に恵まれて、“おかてがある”んですよ」
引っ込み思案のおばあちゃん子
1986年8月11日、邦広は福井県美山町(現・福井市)に生まれた。体の大きな赤ん坊だったが、性格はおとなしく、人見知り。大のおばあちゃん子で、いつも祖母が畑仕事をしている横に座って、日が暮れるまで一人で小さな石ころを集めるお手伝いをしていた。 少しでも社交性を持ってもらいたかった母は、夏休みに隣町と合同のキャンプ企画に申し込むよう仕向けたが、邦広は「知らない人と一緒は嫌だ」と、母に内緒で申込書を出さなかった。そんな何をするにも「嫌や」が口癖の少年が、初めて「やりたい」と意志を示したのがバレーボールだった。 きっかけは母が参加していたママさんバレーだった。小さいころから、「私がいないところでお兄ちゃんとケンカするのは嫌だから」と邦広を練習や試合に連れて行った。そこで“エース”として活躍する香代子さんの姿に、子どもながらに憧れた。 バレーボールを本格的にはじめたのは小学4年生のころだ。 「本当は5年生にならないとクラブには入れないんです。だけど、自分から主張することのない邦広が『バレーがやりたい』と言っている今を逃したくなかった。校長先生には1年待てば入れると言われましたが、『それじゃあ遅い。今、あの子がやりたいと言っている気持ちを私は尊重してあげたい』とお願いしたんです。校長先生が『特別扱いはできないけど、クラスメイトに聞いてあげる』と言って、邦広の他にもやりたい子がいたのでクラブに入ることができた。小さいころはソフトボールもしていて、そこでも『邦広が投げる球は先生じゃないと捕れんから、野球選手にしたらええ』と言われたこともあるんですけど、私はバレーをやってほしかった。これがチャンスだと思って、一生懸命お願いしたんです」 邦広が、バレーボール人生を歩めることになったのは、母の熱意のおかげでもあった。 世界が一気に広がったのは、美山中学校に入学してからだ。 野球の才能だけでなく、中学時代には本格的に相撲部屋からスカウトを受けたこともあるが、清水が生まれ育った街はもともとバレーボールが盛んな地域だった。バレーボール選手を目指していたという監督のもと、技術を学ぶだけでなく、県を飛び出して他県の強豪チームとの練習試合や交流の機会にも恵まれ、才能は順調に開花していった。 ただ、実は当時、異なる道に進みかねない出来事もあった。
母も怒った“眉毛事件”
引っ込み思案の幼少期とは異なり、中学時代の邦広は少々ヤンチャだった。ただ、仲間と悪さをしても、3年生になる頃には身長180センチを超えていた大きな邦広がいつも怒られた。特にバレー部の顧問からは事あるごとに叱られた。 邦広自身も「めちゃくちゃよく覚えている」と苦笑いするのが、朝礼での“眉毛事件”だ。 「何だ、この眉毛は!」 全校生徒が集まる体育館での朝礼を終えると、呼び出された。 その前日、床屋の店主に「今の流行りだから」と眉毛を細くされた。自身の意志ではなかったが、文句をつけることなど当然できない邦広はそのまま登校。周りの生徒たちも引くほどの剣幕で怒られた。 この一件に、顧問の先生以上に怒ったのが母だった。同級生の親から「邦広くん、ずいぶん怒られていたよ」と報告を受けた香代子さんは、先生と保護者との食事の席で場が和んだところで顧問にチクリと釘を刺した。 「先生、床屋さんが勝手に短くしただけなのに、理由も聞かないで怒るなんて、先生にも非がありますよ。あれだけ怒られて、頑張っているバレーボールも嫌いになっていたかもしれない。そうなったら、どう責任取ってくれるの?」 先生に面目ないと謝罪された、と母は懐かしそうに笑った。 中学時代のエピソードはこれだけでない。ブロックに跳んだ際、ボールを顔面に受けて網膜剥離になったこともあった。その時は「大丈夫」とやり過ごしたが、数日経ってから、「視界の半分が真っ黒なんやけど」と症状を話した邦広を病院に連れて行った。すぐに手術を受けたが、再びボールが顔面をヒットする可能性は否めない。バレーボールを続けられるのか悩んでいた時、「目を防御するいいゴーグルが海外にある」と探してきてくれたのが、中学校の交流戦で邦広の才能を見抜いたパナソニックパンサーズ(現・大阪ブルテオン)のスタッフだった。香代子さんが回顧する。 「邦広はゴーグルのおかげでバレーボールを続けていくことができた。だから、私はいつかあの時の恩をパナソニックに返してほしいと思っていたんです。18年間もお世話になれたのも、それもご縁でしょうね」
高校時代の監督「野性味がないとあかん」
厳しく叱責されながらも、美山中では大エースになるべく育てられた。「スパイクは全部邦広に上げろ」と、コートの至るところから打ちまくった。大柄なサウスポーの存在は、すでに多くの人たちの目に留まり、その中には、のちに進学する福井工大福井高校の堀豊監督もいた。 「野性味がないとあかん」と“ゴリ”と名付けたのも堀監督だ。清水を迎え入れると、将来を見据えて高いトスを打ち切れるアタッカーに育て上げた。小さくまとまらないように、「壁に向かってスパイクを打て!」とパワーアップを促す指導によって才能はさらに開花していった。堀監督は同じ福井県出身で、北京五輪で主将を務めたOB荻野正二にも「邦広に教えてやってくれ」と頼み込んだ。 「何で俺ばっかり(厳しくされるのか)……って本人は言ってましたけど、堀監督は邦広を荻野さんのようなトップ選手にするためには、荻野さんがやってきた以上のことをやらなダメだと思ったんでしょうね。今振り返ると、あの子をつくるために上らないといけない階段を上がらせてくれる人がいた。会わないといけない人たちに、ちゃんとその時々で会わせてもらえたなって、私は思っているんですよ」(母・香代子さん) 監督だけでなく、ライバルにも先輩にも恵まれた。 高校時代は福澤達哉を擁する京都・洛南高校と幾度となく名勝負も繰り広げた。スター選手ぞろいの東海大学では、邦広のミスで試合に敗れても「お前がもっと強くなれ」と励ましてくれる先輩がいた。「本当に恵まれた」と香代子さんは、何度も繰り返す。 「東海大では高校時代に負け続けた福澤くんに『大学では勝ちたい』しか考えていなかったみたいですけど、1年生のころから試合に使ってもらって、すごい人たちと一緒にプレーしてどうやって自分が生き残るか、もっと強くなるか、選手として大事なことを学ばせてもらったんだと思います」 日本代表に選出され、北京五輪に出場したのも大学時代だ。5戦全敗と厳しい結果ではあったが、母も地元の後援会メンバーと現地まで足を運んで息子の晴れ舞台を見た。卒業後は中学時代から縁のあったパナソニックパンサーズに進んだ。数えきれないほどの試合を観てきた香代子さんだが、サーブを打つ際はいつも目をつぶってしまう。 「ダブる(ミスする)のだけはあかんよ、って怖くて。周りの声を聞いて、あーよかった、とホッとして目を開ける。試合をテレビで見るときも生で見るのは怖いから、いつも録画して、結果を確認してから見ていました」 “あの日”も録画観戦だった。 2018年2月、Vリーグのファイナルステージ。まだ結果すら知らない試合直後、香代子さんのもとに後援会の一人から連絡があった。 「邦広がケガした。テレビでもやっとったよ」 全治12カ月――選手生命をも脅かす大ケガだった。
参照元:https://news.yahoo.co.jp/
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