イランに対する「壮絶な怒り(エピック・フューリー)作戦」の支援任務のため、米海軍の空母エイブラハム・リンカーンの飛行甲板を滑走するF/A-18E戦闘機。2026年3月2日、洋上で撮影(U.S. Navy via Getty Images)
米海軍の原子力空母「エイブラハム・リンカーン(CVN-72)」は米国時間6日時点で237日間洋上にある。米国外での寄港は7月の1度だけで、展開期間は258日に達している。
ニミッツ級空母の5番艦で第3空母打撃群の旗艦であるエイブラハム・リンカーンは2025年11月21日、とくに大きな注目を浴びることもなく米西部カリフォルニア州のサンディエゴ海軍基地を出港した。その後12月12日にグアム海軍基地にごく短期間寄港してから、先月上旬にオマーンに寄港するまで、208日間連続して洋上にあった。これは現代の空母による連続洋上行動の期間としては最長だ。
全体の展開期間は、米海軍の最新鋭空母「ジェラルド・R・フォード(CVN-78)」が先ごろ記録した326日間(2025年6月24日〜2026年5月16日)とはまだ開きがある。これはベトナム戦争以降、米海軍の空母の展開期間として最長となっている。ただしジェラルド・フォードの場合、この展開任務中に数多く寄港していた。また、ジェラルド・フォードは中東に派遣され、紅海から作戦行動を行ったものの、母港の米東部バージニア州ノーフォーク海軍基地を離れていた約11カ月のうち、かなりの期間は戦闘地域と呼べるような場所にはいなかった。
展開長期化で悪化する艦内環境、士気も低下か
米軍はアラビア海の一部を正式な戦闘地域に指定していている。エイブラハム・リンカーンがその範囲内にいるかどうかにかかわらず、周辺を含めた一帯は危険度の高い作戦・戦闘地域と見なされ得る。エイブラハム・リンカーンは脅威度の高い状況で作戦行動を継続しており、米国が2026年2月28日にイランに対する「壮絶な怒り(エピック・フューリー)作戦」を始めて以来、一貫して厳戒態勢を維持している。
昨年11月にサンディエゴを出港した時点では、エイブラハム・リンカーンは通常の7カ月間の任務が想定されていた。しかし、展開期間はすでに2度にわたり延長されている。
長期にわたって港から離れているために、艦内の環境は理想とはほど遠い状態になっているようだ。米ニューステレビ局MSナウ(旧MSNBC)が5日、複数の乗組員の家族の話をもとに伝えたところによると、シャワー室はカビだらけで、食料も足りておらず、さらに乗組員は歯磨き粉やデオドラント、石けんといった必需品にもこと欠き始めているという。
もともと空母は、危険でストレスの多い職場と見なされている。
そのうえ展開期間が延び、さらにトイレが詰まって使えない、休暇をほとんどとれない、といった問題が重なると、状況はますます悪くなる。
義理の息子がエイブラハム・リンカーンに乗艦しているというボニー・ヨークは、MSナウにこう語っている。「士気は振るわないようです。どうも、艦の医師かセラピストが『早く寄港しないと乗組員たちはじきに精神的に参ってしまう』というようなことを言ったそうです」
米海軍第5艦隊の報道官であるジョセフ・ホンツ中佐はMSナウに、乗組員は想定される摩耗や損耗は修理できていると説明する一方、「250日を超える展開は乗組員と装備にとって厳しいものです」と認めた。それでも「乗組員は引き続き粘り強く任務に励んでおり、与えられたいかなる任務もやり遂げる用意ができています」とも述べている。
4月には、エイブラハム・リンカーンと米海軍の強襲揚陸艦「トリポリ(LHA-7)」で食料が不足していると報じられた。ピート・ヘグセス米国防長官はこれを「フェイクニュース」と断じ、その直後に米海軍は、乗組員に栄養バランスのとれた十分な食事が提供されていることを示す画像を公開した。
エイブラハム・リンカーンの交代は時間の問題
米国の空母数が限られる一方、イランとの最終的な和平も成立していないため、エイブラハム・リンカーンがいつまで今回の展開を続けることになるのかは見通しにくい。
たとえ報道されている内容ほど状況が悪くないのだとしても、このような高い作戦テンポが乗組員の士気にとって好ましいものではないのは確かだ。また、空母にとっても好ましくない。長期間の展開任務に従事した空母は通常、整備期間も長期化し、その結果、次に派遣される空母の展開期間も長くなる可能性が高いからだ。この問題は、少なくとも中東情勢が収束するまでは悪化の一途をたどるだろう。
2003年の「イラクの自由作戦」の最中には、米海軍は中東地域に空母を6隻展開させていた。うち5個空母打撃群は、同年3月20日に開始された「衝撃と畏怖」式の初期攻撃に活発に参加した。
米海軍が今回、中東に空母3隻を同時に展開させることができたのは、4月下旬の短期間だけだった。現在、中東に展開しているのは2隻にとどまる。
中東に派遣されているもう1隻の米空母は、ニミッツ級空母の10番艦で最終艦の「ジョージ・H・W・ブッシュ(CVN-77)」だ。ジョージ・ブッシュは3月31日にノーフォーク海軍基地を出港し、アフリカ南端の喜望峰回りのルートを航行して4月23日にアラビア海に到着した。南へ迂回する航路をとったのは、紅海やバブ・エル・マンデブ海峡といった危険度の高いチョークポイント(難所)を避けるためとみられる。
エイブラハム・リンカーンの交代は時間の問題だが、選択肢は限られる。
米東海岸に母港がある「ドワイト・D・アイゼンハワー(CVN-69)」は、引き続き次期展開に向けた準備を行っている。次の展開を始めるのは今秋以降になる可能性が高い。今秋ごろに中東へ向かうとしても、航路は大西洋を横断後、ジョージ・ブッシュと同じようにアフリカ回りのルートをとらざるを得ないかもしれない。あるいは、地中海からスエズ運河を抜けて紅海に入り、ジェラルド・フォードが今年したようにそこから作戦行動を実施する可能性もある。
米西海岸に母港がある「セオドア・ローズベルト(CVN-71)」は、ハワイ周辺海域で6月下旬から7月末まで行われた2年に1度の環太平洋合同演習(RIMPAC)を主導したあと、サンディエゴのノースアイランド海軍航空基地への帰途についた。地元紙サンディエゴ・ユニオン・トリビューンによると、CVN-71は短期間のターンアラウンド(次の任務に向けた補給・整備などの準備)を経て、9月にも本格的な展開を始める見通しとなっている。
前方展開している「ジョージ・ワシントン(CVN-73)」が中東に派遣される可能性もある。ジョージ・ワシントンは日本の横須賀を母港とし、5月23日に2026年の展開を開始した。ただ、同艦を中東に送れば、米海軍は西太平洋での空母のプレゼンスがなくなることになる。
米海軍に利用可能な空母が不足していることを考えれば、エイブラハム・リンカーンはイランに対して発動される可能性のある戦闘作戦に備え、少なくともあと1カ月、おそらく2カ月は展開を継続する公算が大きい。つまりエイブラハム・リンカーンの展開期間は、ジェラルド・フォードが打ち立てた326日という最長記録に迫る可能性がある。もっとも、乗組員は進んでそうしたいわけではないだろう。
最後に、ジョージ・ブッシュが現在、128日間洋上にある点にも留意しておく必要がある。同艦の6~7カ月間の派遣期間もまた、延長されることになるかもしれない。世界の複数の脅威に対処するには、米海軍で就役している空母は単純に言って数が足りていないのだ。
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