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人体冷凍保存へ向けて。臓器を安全に保存する為の抗凍結剤が魚をヒントに開発されている

人体冷凍保存へ向けて。臓器を安全に保存する為の抗凍結剤が魚をヒントに開発されている
人体冷凍保存へ向けて。臓器を安全に保存する為の抗凍結剤が魚をヒントに開発されている

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 人体を冷凍保存して未来まで体を維持するというアイデアは、SFの世界では定番だ。実際の世界でも、人体細胞や組織、臓器などを安全に冷凍保存する必要性は高まっている。

 問題は、解凍した後でもその機能が維持できるかどうかだ。近い将来、自分の臓器を冷凍保存できる未来が来るかもしれない。

 今はまだ実現できていないが、魚をヒントに開発された新しい抗凍結剤がその手助けをしてくれるかもしれないという。

・極寒の海でも魚が生存できる秘密を探れ!
 生物はたくましいもので、人間では考えられないような極限環境でも繁殖することができる。そうした環境の1つに、南極や北極の凍てつく海がある。

 体の組織が凍ってしまえば、生物にとっては大きなダメージだ。生きるために必要なタンパク質がくっついてしまったり、組織をつなげている構造が弱まったりするからだ。

 そこで冷たい水の中で生きる魚や極限微生物は、凍り始めるとそれを察知して氷に結合するタンパク質を作り出す。これが抗凍結剤として作用するために、人間にはとても耐えられない寒さの中でも生きていくことができる。

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・魚をヒントに開発された合成ポリマー抗凍結剤
 英ウォーリック大学のマシュー・ギブソン教授は、こうした魚の機能をヒントに、合成ポリマーから氷に結びつくタンパク質を開発した。

 この合成ポリマー・タンパク質抗凍結剤は、無数のモノマー(ポリマーを構成する分子)を利用することで、用途に応じて簡単に調整することができるという。
 そして今、ギブソン教授が目指しているのは、これを使って解凍した後でもその機能が維持できる細胞の凍り方を制御することだ。

 人体に移植される骨髄幹細胞は、輸送するために冷凍されることがある。その際、細胞が破壊されないように溶剤が加えられるのだが、それでもかなりの細胞がダメになるし、溶剤自体が細胞に悪影響を与える。

 ところがギブソン教授らが、この抗凍結剤を利用して骨髄幹細胞を冷凍してみたところ、これまで必要だった溶剤を減らしても、かなりの細胞を守ることができたという。

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image credit:SozvezdieL, licensed under CC BY 4.0

・生物学的治療薬への応用
 抗凍結剤は、昨今、成長著しい生物学的治療薬を保存するためにも利用することができる。

 従来の薬剤は、一般に小さな分子を錠剤に固めたものだ。だが最近では、抗体から関節炎やがんの治療薬まで、タンパク質から作られた薬剤が増えている。これらは普通の錠剤と違い、無造作に棚の中で保管というわけにはいかない。

 がんに対する免疫力を高めるCAR-T細胞治療法などは、さらにデリケートな取り扱いが必要になる。ドナーから細胞を採取し、それを処理して、凍結したうえで出荷するという複雑なプロセスがあるからだ。

 こうした新しい治療薬を安全に患者に届けることができる技術は、今後ますます大きな意味を持つだろう。

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・臓器の冷凍保存
 人体組織の冷凍保存も抗凍結剤の出番かもしれない。
たとえばオランダ、アイントホーフェン工科大学のイリヤ・ブーツ教授は、心臓の細胞組織の凍結・解凍に関心を示している。現時点では、心臓の細胞組織を凍らせてしまうと、半分しか使えなくなってしまうのだという。

 心臓組織の細胞はさまざまで、あるタイプの細胞にはぴったりの保存法だったとしても、別のタイプには向かないことがある。これが心臓組織全体の冷凍保存を難しくしている。

 だが、ブーツ教授の究極の夢の1つは、自分自身の心臓を組織バンクのようなところで丸ごと保存できるようにすることだという。これが実現すれば、いつか心臓に問題を抱えることがあっても、いつでも予備の心臓を移植することができる。

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・冷凍保存技術が社会に与える影響
 そして実際にこうした試みはすでに進んでおり、社会に影響を与えつつあるという。そして、それは必ずしもいいものばかりとは限らないようだ。

 たとえばアメリカなどでは、今はいらないが将来的には子供が欲しいと思っている人向けに卵子の冷凍保存サービスを提供する企業がある。

 仕事と子育ての両立はときにとても大変なことだ。今はバリバリ働きたいが、いずれは子育てに専念したいような場合、卵子を保存することで希望通りの人生設計を描けるようになる。

 だがドイツ、ゲーテ大学のトマス・レムケ教授は、個人の悩みを解決する方法であるはずが、かえって負担になる可能性があると指摘する。というのも、本人が望むと望まざると、社会がそうすることを期待するようになるかもしれないからだ。

 一方で、それは究極の保険にもなりうるという。実際、幹細胞をたっぷりと含んだ臍帯血のバンキングサービスを提供する企業はすでに存在する。将来的には、心臓についても同じような状況になるかもしれない。
 

 

参照元https://dailynewsonline.jp/